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日韓が冷え込む中 日本文化受け入れる人々

2013年3月14日 21:21
日韓が冷え込む中 日本文化受け入れる人々

 3月、韓国では日本の“竹島の日”に抗議して、一部で日本製品の不買運動が始まった。歴史や領土問題で冷え込む日韓関係だが、そんな中、日本の文化を受け入れようという人々の姿を見つけた。ソウル支局・永廣陽子記者が取材した。

 ソウル近郊にある日本風の居酒屋で「カンパイ」の声が聞こえてきた。会社員の金政漢さんは、日本への出張をきっかけに日本酒の魅力にとりつかれて10年以上になる。

 「(日本酒は)味が長く残らないから、ほかの酒を飲んでも邪魔にならないね」

 日本酒についてもこの通り詳しい。金さんはインターネットで会員を募り、日本酒を楽しむ会を主宰している。酒づくりの文化を感じることも日本酒の魅力の1つだと語る。

 「日本酒を味わうというのは、酒蔵が経てきた時間・努力を味わうものだと思う。日本酒を飲むことは文化を飲むのだと思います。日本の文化を味わうんだと」

 店で飲んでも日本円で1本300円以下の韓国産の焼酎に比べ、韓国で飲む日本酒は、安いものでもその数十倍の価格となる高価な酒だ。それでも日本食ブームとともにその人気は定着しつつある。

 ただ、韓国と言えば過去の歴史をめぐり、根強い“反日感情”がある。独立運動の記念日である3月1日、日本の“竹島の日”に反発して自営業者の団体が日本製品の不買運動を始めた。その約1週間後、不買運動を続ける店を訪ねた。話を聞いてみると、こう語ってくれた。

 「売り上げが7%ぐらいダウンしたと思います。たぶん政治的な問題が緩和するまでは(不買運動を)続けると思います」

 日本製品の不買を訴えるステッカーは、これまでに約1000枚が配られた。この団体は、さらに200万枚を準備して運動を続けていくとしている。団体側はこの運動について「(不買運動が)成功するかどうかより、韓国国民がどれほど歴史と独島(竹島)の問題に敏感なのか、強いメッセージを日本の国民に伝えたかったんです」と語る。

 しかし、一度はったステッカーをすでに取り外していた店もあった。訪れる日本人客に配慮したのだという。不買運動の中心と位置づけられていたたばこ店でも、日本のたばこを取り扱っている。店員はその理由をこう語ってくれた。

 「たばこを売る店はみんな(日本のたばこを)売っているわよ。昔からあったのにいきなりなくせないでしょ」

 街では日本ブランドの紙袋を手にした人たちが行き交う。「ニコンのカメラを買いました」という男性もいた。ユニクロで買い物をした人からは「Tシャツを買ったんだ」「僕も関連なく気に入ったら買う方だよ。激しい反感があれば買わないのも当然だと思うけど、僕は不買運動をする気はないです」との声を聞くことができた。

 12日、ソウルで日本酒と焼酎の商談会が開かれた。東北から九州まで18の蔵元などが参加して自慢の酒をアピールした。ズラリと並ぶ蔵元のブースには、試飲する韓国人で埋まっている。韓国側は、ホテルや日本料理店などから約200人がつめかけ、日本の酒の豊かな味わいを確かめていた。参加者からは「なめらかで女性がたくさん飲むと思います」「需要はかなり増えると思います」と、前向きな感想が上がっていた。

 韓国での日本酒の輸入量は、震災の影響で一時的に減ったものの、その後回復し、2012年は過去最大の3206トン(前年比4.09%)を記録した。日韓関係が冷え込む中、“日本酒”という日本文化を受け入れる金さんはこう語ってくれた。

 「日本人だという理由ひとつで、職人がつくった酒まで政治的に問題だから飲まないぞというのはちょっとどうでしょう。私はただおいしいものが飲みたくて。日本酒が飲みたいだけなんです。政治は政治で食べ物は食べ物です。そうでしょ」

 国と国との関係がぎくしゃくしても経済や文化は別。そう考える人たちが韓国での日本製品の消費を支えているようだ。